昼休み、自主練習をしに行った日吉を追い、私もコートまで来た。
・・・おぉ。やってる、やってる。
日吉からは見えない位置に来てしまった私は、熱心に練習している日吉の背中を見ていた。
この方が邪魔にならないからいいか、と思った矢先、日吉が振り向いた。
「・・・なんだ、か。」
「ごめん。邪魔しちゃった?」
「いや、問題ない。・・・・・・見に来たのか?」
「うん!」
「・・・そうか。じゃあ、練習続けるぞ?」
「どうぞ。」
また日吉はくるりと反対を向いて、練習を再開した。・・・ちょっと寂しいかな、なんて。でも、日吉はさっき、私が見に来たのかを聞いてくれた。たぶん、用が無いかどうかを確認してから、練習を始めてくれたんだ。しかも、練習を見ることも許してくれた。・・・こんな風に優しくしてもらって、寂しいなんて贅沢は言えない!と言うか、充分満足だ!
こうして、私もまた、練習している日吉の背中を見続けることになった。
今この時も、日吉はS1の座のことを考えて頑張っているんだろう。日吉は中等部の時から、跡部部長を超えたいと考えていて、それは今でも変わっていないらしい。だから、跡部部長が部に在籍している間にS1になること、それが日吉の当面の目的だろう。
その目的のために、こうやって努力できることもすごいけれど・・・、それ以上に。跡部部長を超えたいと思えることがすごいと思う。
誰だって、誰よりも強くなりたいとは思っているはず。それでも、現実には難しい話で・・・。どうしても届かない壁だってある。
・・・私だったら、跡部部長なんてすごすぎて、目標にさえできないと思う。ましてや、追い越したいなんて強い意志は持てそうにない。
それに比べて、日吉はすごいよ・・・なんてことを本人に言えば、「それは俺が実現できそうにないとでも言いたいのか・・・?」というようなことを返され、機嫌を大いに損ねるだろう。だから、絶対に言わないでおくけれど。それに、そんなことは思ってないからね。私も、日吉は絶対跡部部長に下剋上できると思うよ!・・・・・・いや、でも跡部部長もすごいと思っています!・・・って、そんな言い訳をしてる場合じゃない。
とにかく、日吉はすごく頑張っていると私は思うんだ。だから、そんな日吉のために、少しでも役に立ちたいって思うんだよね。
今は応援することしかできないけれど・・・。でも、心の中で精一杯応援してるから!なんてことを思っていたら、日吉がふと練習を止めた。昼休みの時間はまだあると思うけど・・・。
「・・・終わり?」
「あぁ。この後、片付けもあるからな。」
「片付けは私も手伝う!だから、もう少し練習続けてもいいよ?」
日吉のことだ。少しでも練習したいと思っているはず。もちろん、無理はさせたくないけど、これぐらいでへたばる日吉じゃない。そう考えて、私は勢いよくそんな提案をした。
それに対して、日吉は少し苦笑いをしながら、冗談っぽく返した。
「昼休みまでお前を働かす気はない。時間外労働になるぞ。」
時間外労働なんて言葉・・・普通の会話で出てくる?それに、マネージャー業を労働だと思ったことはない。みんなが部活を頑張っているのと一緒で、私も楽しいからこうしているだけ。
でも、そんな日吉に便乗して、私も同じように返した。
「日吉が働くなら、それが私の労働時間だよ。」
そう言ってしまってから、日吉だけが特別だと言っているみたいだと気付いた。あくまで、マネージャーとして、選手が練習しているときは私も手伝うんだ、というような言い方にしなくちゃいけなかったと言い直しかけると、日吉はさっき私が考えていたことを口にした。
「別に・・・俺は好きでやってるだけだ。」
よかった、気付かれなかった。という安心と、やっぱりそうなんだよね、なんて納得をして、私は笑って返した。
「私だって好きでやってるんだもん。それでも、時間外労働だって言うんなら・・・、時間外手当をちゃんと貰うよ。日吉が強くなって試合に勝つ、っていう手当をね。」
「・・・。」
「だから、ほら!喋ってる時間も勿体ないから!早く練習再開しよう?私もまだ見ていたいからさ!」
日吉が言った時間外労働に便乗して、ちょっとカッコイイことを言おうとしたら、見事に外してしまった・・・。恥ずかしい・・・!
だから、日吉に何か言われる前に、私は早く日吉に練習するよう促した。
「・・・仕方ない。そうさせてもらう。」
心なしか、少し笑われたような気はするけど・・・。でも、それ以上は何も言わず、日吉は練習を再開してくれた。
そして、しばらく練習を見た後、私たちは一緒に片付けをした。片付けている途中、日吉があらためて・・・。
「。ありがとう。」
なんて言ってくるから、ちょっと恥ずかしかったけど。・・・まぁ、その分嬉しくもあったけど。
やっぱり、私は日吉を応援したいし、日吉の役に立ちたいなって思うの。そりゃ、マネージャーとして、皆さんのこともそう思っているけれど・・・。でも、その中でも日吉は特別なんだよね、どう足掻いても。
だから、跡部部長、すみません。これからも、私は日吉が跡部部長に勝てる日を待ち望みたいと思います!
私も待ち望みたいと思います!(笑)本当、いつになったら、S1になれるんでしょうか?高等部でもなれないんでしょうか?
・・・なってほしいとは思いますが、でも、跡部さんも負けてほしくないとも思ってしまいます(笑)。やっぱり、氷帝のS1は跡部さんで、日吉くんにはずっと下剋上に励んでもらいたい気がします。
上記ともつながりますが。こういう話を書くのは、日吉くんの頑張っている姿が好きだからですね。本当、彼は努力の人だと思います(他のキャラが努力家でない、という意味ではなく)。
・・・私も見習わなきゃなぁー(苦笑)。
('09/11/29)